窓明かりの群れに揺れる
 同じ頃。

 給湯室では、
 女子社員たちが紙コップを手に、
 いつものようにおしゃべりをしていた。

 「ねえねえ、新入社員の達也くんと恵さん、
  付き合ってるみたいよ」

 「え、どうして? 
  そんなふうに見えないけど」

 「けさ見たの。
  道玄坂のホテル街を歩いているとこ」

 「えー、もしかしてラブホテル?」

 「そうそう、あのピンクの看板のとこ。
  スーツのまんまで、
  そのまま会社に直行〜って感じ」

 「マジで? 朝からそれは元気ねぇ」

 「ていうか、
  なんであなたがそんなとこ目撃してんの?」

 「いやー実は私も彼と……って、
  これ以上はナイショ」

 「なにそれ!」

 クスクスと笑い声が混じる。

 その入口近くで紙コップを
 取り出そうとしていた直樹は、
 手を止めたまま固まった。
 (……達也と、恵さんが……?)

 胸のあたりが、ずしんと沈む。
 恵のことは、ずっと密かに想っていた。

 そして、春奈と達也の距離感だって、
 近くで見てきた。
 (このまま、聞かなかったふりはできねえだろ)

 直樹は、紙コップを棚に戻すと、
 無言で給湯室を出た。
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