窓明かりの群れに揺れる
食事のあと、
駅とは反対側へなんとなく歩き出す。
「ちょっと散歩してから帰ろうか」
「はい」
夜風が、
昼間の熱気を少しだけ冷ましていた。
街路樹の間を抜けるような細い道。
マンションの明かりが、点々と並ぶ住宅街。
都会なのに、少し静かなその空気が、
春奈には心地よかった。
「……東京にも、
こういう静かなとこあるんですね」
「意外だった?」
「意外でした。
もっと、ビルとネオンだらけなのかと」
「それ、ドラマの見過ぎ」
二人で小さく笑う。
ほんの一瞬、会話が途切れた。
その隙間に、
足音と心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。
「春奈」
名前を呼ばれて、顔を上げた瞬間――
ふっと、
視界の中に達也の顔が近づいた。
「え……」
驚きと戸惑いで、
言葉が途中で止まる。
次の瞬間、
柔らかいものが唇に触れた。
ごく短い、
けれどはっきりとしたキスだった。
世界が一瞬止まったみたいに、
音が全部消える。
最初に戻ってきたのは、
自分の鼓動だけだった。
どくん、どくん、と、
耳のすぐそばで
聞こえているみたいにうるさい。
触れた唇が離れかけた瞬間、
春奈は、とっさに達也のシャツの裾を
そっとつまんだ。
「う……っ」
その小さな仕草に、
達也の動きが止まる。
逃げるでもなく、
押し返すでもなく――
ほんの少しだけ、
そこに留まることを選んだ自分に気づいて、
胸の奥がじんわり熱くなった。
もう一度、
さっきよりもゆっくりと唇が重なる。
「くぅ……」
今度は、目を閉じた。
怖さよりも、
「この人になら」という気持ちのほうが、
ほんの少しだけ勝っていた。
ふいに、
肩のあたりに、あたたかい腕が回される。
強く抱きしめられるわけじゃない。
でも、
ちゃんと支えてくれているとわかる
力加減で、
達也は春奈をそっと胸元へ引き寄せた。
胸板越しに伝わる鼓動が、
自分の心臓の音と重なって、
時間の流れが曖昧になる。
唇が触れ合った瞬間、
ふっと息が止まる。
次の瞬間、
達也の腕がそっと春奈の腰を引き寄せた。
布越しに添えられた指先の熱が、
じわじわと広がっていき、
胸の奥も、からだの奥のほうまでも、
一気に火を灯されたみたいに熱くなる。
実際にはきっと、
たいした時間じゃなかったはずなのに、
その一瞬は、終わりのない一コマみたいに、
いつまでも続いているように感じられた。
唇が離れても、
しばらくの間、二人の額は近いまま。
夜風が、
頬の熱さと胸の高鳴りを
少しだけ冷ましていくまで――
駅とは反対側へなんとなく歩き出す。
「ちょっと散歩してから帰ろうか」
「はい」
夜風が、
昼間の熱気を少しだけ冷ましていた。
街路樹の間を抜けるような細い道。
マンションの明かりが、点々と並ぶ住宅街。
都会なのに、少し静かなその空気が、
春奈には心地よかった。
「……東京にも、
こういう静かなとこあるんですね」
「意外だった?」
「意外でした。
もっと、ビルとネオンだらけなのかと」
「それ、ドラマの見過ぎ」
二人で小さく笑う。
ほんの一瞬、会話が途切れた。
その隙間に、
足音と心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。
「春奈」
名前を呼ばれて、顔を上げた瞬間――
ふっと、
視界の中に達也の顔が近づいた。
「え……」
驚きと戸惑いで、
言葉が途中で止まる。
次の瞬間、
柔らかいものが唇に触れた。
ごく短い、
けれどはっきりとしたキスだった。
世界が一瞬止まったみたいに、
音が全部消える。
最初に戻ってきたのは、
自分の鼓動だけだった。
どくん、どくん、と、
耳のすぐそばで
聞こえているみたいにうるさい。
触れた唇が離れかけた瞬間、
春奈は、とっさに達也のシャツの裾を
そっとつまんだ。
「う……っ」
その小さな仕草に、
達也の動きが止まる。
逃げるでもなく、
押し返すでもなく――
ほんの少しだけ、
そこに留まることを選んだ自分に気づいて、
胸の奥がじんわり熱くなった。
もう一度、
さっきよりもゆっくりと唇が重なる。
「くぅ……」
今度は、目を閉じた。
怖さよりも、
「この人になら」という気持ちのほうが、
ほんの少しだけ勝っていた。
ふいに、
肩のあたりに、あたたかい腕が回される。
強く抱きしめられるわけじゃない。
でも、
ちゃんと支えてくれているとわかる
力加減で、
達也は春奈をそっと胸元へ引き寄せた。
胸板越しに伝わる鼓動が、
自分の心臓の音と重なって、
時間の流れが曖昧になる。
唇が触れ合った瞬間、
ふっと息が止まる。
次の瞬間、
達也の腕がそっと春奈の腰を引き寄せた。
布越しに添えられた指先の熱が、
じわじわと広がっていき、
胸の奥も、からだの奥のほうまでも、
一気に火を灯されたみたいに熱くなる。
実際にはきっと、
たいした時間じゃなかったはずなのに、
その一瞬は、終わりのない一コマみたいに、
いつまでも続いているように感じられた。
唇が離れても、
しばらくの間、二人の額は近いまま。
夜風が、
頬の熱さと胸の高鳴りを
少しだけ冷ましていくまで――