窓明かりの群れに揺れる
春奈は、
達也の腕の中から抜け出そうとしなかった。
達也の腕は、
しばらく春奈の肩を包んだままだった。
「……ごめん。
いきなり、ちょっと押しすぎたかも」
耳元で落ちてきた声は、
思っていたよりずっと真剣で、弱かった。
「いえ……」
春奈は、小さく首を振る。
恥ずかしさと、
まだうまく言葉にできない嬉しさとが
混ざっていて、
顔を上げる勇気がなかなか出てこない。
ふたりの間に、
少しだけ長い沈黙が落ちた。
やがて達也が、
いつもよりゆっくりした口調で切り出す。
「……このままさ」
「はい?」
「もう少し、
ゆっくりできるところ行こうか。
コーヒー飲めるとことか。
終電、まだ余裕あるし」
言葉の選び方は、慎重だった。
具体的な店の名前も出さない。
けれど、
どこかで聞いたことのある曖昧さが、
その提案の「先」をなんとなく想像させる。
(……そういう意味、なんだろうな)
胸の奥が、きゅっとなる。
からだの芯が、じゅっと
おく深く熱をおびているがわかる。
達也の腕の中で
「このまま時間が止まればいいのに」と
すら思っていたのに、
その一歩先を想像した瞬間、
どこか別の場所で、
そっとブレーキがかかった。
「えっと……」
春奈は、視線を足元に落としたまま、
言葉を探す。
「今日、まだ途中の資料があって……
明日の朝までに
直しておきたいところもあるから、
さすがにちょっと……」
正直な理由と、
本当の理由とを、
そっと一緒に混ぜる。
「ごめんなさい」
顔を上げると、
達也が一瞬だけ
「ああ……」と目を伏せた。
その横顔が、
がっかりしたようにも見えたし、
無理に笑っているようにも見えた。
だけど、
すぐに苦笑交じりの表情に戻る。
「いや、
言い方がややこしかったな」
「そんなこと……」
「ちゃんと送ってくよ。
途中まででも、一応ね」
そう言って、
いつもと同じ調子に戻してくれたのが
ありがたかった。
達也の腕の中から抜け出そうとしなかった。
達也の腕は、
しばらく春奈の肩を包んだままだった。
「……ごめん。
いきなり、ちょっと押しすぎたかも」
耳元で落ちてきた声は、
思っていたよりずっと真剣で、弱かった。
「いえ……」
春奈は、小さく首を振る。
恥ずかしさと、
まだうまく言葉にできない嬉しさとが
混ざっていて、
顔を上げる勇気がなかなか出てこない。
ふたりの間に、
少しだけ長い沈黙が落ちた。
やがて達也が、
いつもよりゆっくりした口調で切り出す。
「……このままさ」
「はい?」
「もう少し、
ゆっくりできるところ行こうか。
コーヒー飲めるとことか。
終電、まだ余裕あるし」
言葉の選び方は、慎重だった。
具体的な店の名前も出さない。
けれど、
どこかで聞いたことのある曖昧さが、
その提案の「先」をなんとなく想像させる。
(……そういう意味、なんだろうな)
胸の奥が、きゅっとなる。
からだの芯が、じゅっと
おく深く熱をおびているがわかる。
達也の腕の中で
「このまま時間が止まればいいのに」と
すら思っていたのに、
その一歩先を想像した瞬間、
どこか別の場所で、
そっとブレーキがかかった。
「えっと……」
春奈は、視線を足元に落としたまま、
言葉を探す。
「今日、まだ途中の資料があって……
明日の朝までに
直しておきたいところもあるから、
さすがにちょっと……」
正直な理由と、
本当の理由とを、
そっと一緒に混ぜる。
「ごめんなさい」
顔を上げると、
達也が一瞬だけ
「ああ……」と目を伏せた。
その横顔が、
がっかりしたようにも見えたし、
無理に笑っているようにも見えた。
だけど、
すぐに苦笑交じりの表情に戻る。
「いや、
言い方がややこしかったな」
「そんなこと……」
「ちゃんと送ってくよ。
途中まででも、一応ね」
そう言って、
いつもと同じ調子に戻してくれたのが
ありがたかった。