窓明かりの群れに揺れる
 ホテルの部屋に入った瞬間――

 恵は、
 ほとんど勢いのまま、
 達也の胸に飛び込んだ。

 「ちょ、恵……」

 言いかけた言葉は、
 触れ合った体温と、
 強くしがみついてくる腕に飲み込まれる。

 恵の我慢していた感情のすべてが、
 一気に堰を切ったように
 あふれ出していた。

 (春奈ちゃんの代わりなんかじゃない。
  でも今夜だけは、それでもいい)

 そんな矛盾した思いすら、
 絡み合う温度の中で輪郭を失っていく。
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