窓明かりの群れに揺れる
 恵は、
 達也の視線をまっすぐ受け止めることが
 できなかった。

 (春奈ちゃんの代わりだって、
  それでもいい)

 (今日だけは、
  ちゃんと“欲しがられる私”でいたい)

 胸の奥でそう(つぶや)きながら、
 頬に触れた手のひらのぬくもりに、
 何度も何度も、すがりついてしまう。

 ベッドの上に倒れ込んだ瞬間、
 恵は、
 自分の心臓の音がうるさくてたまらなかった。

 達也の手が、ためらいもなく肩口をつかむ。
 シーツがぐしゃりと音を立てて、
 背中にしわが押し寄せる。

 さっきまで笑っていたはずの唇が、
 もう、笑いとはまったく違う熱さで重なってきた。

 「……んっ」

 深く、強く、息を奪われるみたいな口づけ。

 押し寄せてくる体温に、
 自分のほうが
 ベッドに沈められていく感覚だけが、
 はっきりしている。
 
 シャツの胸元にかかっていた指先が、
 ためらいなくボタンを外していく。

 一つ、とぷつんと音がした気がして、
 続けざまに、二つ、三つと外れていくたび、
 恵の鼓動のほうが、それより早く跳ねていた。

 (ちょっと、荒い……)

 そう思った瞬間、
 首筋をかすめた熱い息に、ふっと力が抜ける。

 「うっ……」

 ブラウスの生地が肩から滑り落ちていく感触が、
 自分のため息といっしょに、背中をくすぐった。

 乱暴というほどじゃない。

 でも、迷いがない。

 ためらわない手つきで、
 まとわりついていた布が、
 次々とベッドのどこかへ追いやられていく。

 スカートのファスナーが、
 背中側で小さく鳴ったとき、
 恵は思わず、シーツを握りしめた。

 (あ、待って――)

 そう思うのに、声にならない。

 腰のあたりをすべる指先が、
 布といっしょに、
 恥ずかしさも、不安も、
 まとめて引きはがしていくみたいで。

 素肌に触れる空気が、一気に増える。

 肩も、脚も、いつもは隠れているところまで、
 容赦なく夜の空気にさらされて、
 そのたびに、体のどこかがびくりと震えた。

 (見られてる……)
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