窓明かりの群れに揺れる
 シーツの上で、
 自分の髪が乱れて
 広がっていくのがわかる。

 どこまでが彼の腕で、
 どこからが自分の脚なのか、
 早くも境界線が曖昧になっていく。

 (今日だけでいいから、離さないで)

 喉の奥までせり上がってきたその願いは、
 声になる前に、
 また次の熱い口づけに飲み込まれた。
 

 「……んっ」


 激しく重なってくる体温に押されるたび、
 恵の中で、
 理性みたいなものがひとつずつ外れていく。

 考えるより先に、
 腕が勝手に達也の背中に回っていた。

 (達也くん……)

 強く抱きしめ返すほど、
 その動きは、さらに荒く、
 迷いのないものに変わっていく。

 (春奈ちゃんの代わりなんだって、
  わかってるのに)

 胸の奥で小さくつぶやいたその言葉さえ、
 荒い息といっしょに、
 すぐにかき消されていく。

 シーツが何度も(きし)んで、
 視界の端で、薄暗い天井の影が揺れる。

 そのたびに、恵の体の奥で、
 熱がひとつ、またひとつ、
 火花みたいにはじけた。

 「……うっ」

 くるしいほど激しいのに、
 やめてほしいと思えない。

 むしろ、

 「もっと」
 
 と

 心のどこかが貪欲に求めてしまう自分に、
 恵は、
 もう驚くことさえできなくなっていた。
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