窓明かりの群れに揺れる

32.彷徨い続ける、甘い時間

 昼過ぎ。
 達也は、重たい頭を抱えながら、
 ゆっくりと目を開けた。

 (……やっちまった)

 鈍い自己嫌悪だけが、
 現実感として最初に戻ってくる。

 ベッドの上には、一人きり。

 シーツは乱れ、窓から差し込む光が、
 昨夜の痕跡を容赦なく照らしていた。

 そのとき、
 バスルームのほうから
 シャワーの音が聞こえてくる。
 (……春奈?)

 いまだにぼやけた意識の中で、
 そんな都合のいい錯覚が頭をかすめる。

 だが、扉が開いて出てきたのは、
 タオルで押さえながら歩いてくる恵だった。

  「……起きた?」

 バスタオルを巻いただけの姿。

 これまであまり意識してこなかった、
 すらりとした美しいラインが、
 白い光の中であまりにも生々しく目に映る。

  「あ……」

 達也が言葉を失っていると、
 恵はふっと笑って、
 タオルをベッドの端に放り投げた。

 何も隠さないまま、
 そのまま達也の胸に飛び込んでくる。

  「ちょ、恵――」

 抗議の言葉より先に、
 熱のこもったキスが重ねられる。


  「……今日だけでいいから」


 耳元で、かすれた声が落ちた。

 その瞳の奥に、
 微かに光る涙の気配。

 (今日は、自分のすべてを達也にあずける)

 次の瞬間、
 何も言わせないみたいに唇が重ねられた。

 ゆっくりと覆いかぶさってくる、
 やわらかくて確かな重さ。

 胸元から、みぞおち、腰のあたりまで、
 だんだん自分の上が彼女ひとりの世界で
 埋め尽くされていく。
< 93 / 122 >

この作品をシェア

pagetop