窓明かりの群れに揺れる
 その後は、

 沈黙と、シャワーの水音だけが、
 部屋を満たしていた。

 恵は、湯気のこもる浴室で、
 肩に落ちる水をぼんやりと受け止めながら、
 目を閉じる。

 ふいに、体の奥に残った熱が、
 ゆっくりとほどけて、太ももからスーッと
 重さを失いながら下へ落ちていくのを、
 はっきりと感じていた。

 それはもう、
 まだどこかに絡みついて、
 離れようとしない温もり。

 (……すべてを受け取った)

 胸の奥でそう思った瞬間、
 それが錯覚だとわかっていながら、
 どうしても、
 彼のすべてを抱え込んだような気がしてしまう。

 その感覚が、
 満たされているのか、
 失っていく前触れなのか、
 恵にはもう区別がつかなかった。

 シャワーの水が、
 その余韻を少しずつ洗い流していく。

 それでも、
 体の内側に残った温かい記憶だけは、
 最後まで、離れてくれなかった。
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