窓明かりの群れに揺れる
第6章

33.笑顔の裏の違和感

 一方、金曜日の夜、
 春奈は母と都内のホテルに泊まった。

 ベッドを二つ並べた部屋で、
 テレビの音を小さく流しながら、
 他愛のない話が、思った以上に途切れなかった。

 「会社、どう? 大変じゃない?」

 「うん、忙しいけど……楽しいよ」

 仕事の話、岩手のこと、
 昔の知り合いの噂話。

 時計を見たら、もう日付が変わりかけていた。
 (……みんな、今ごろ飲んでるのかな)

 ふと、そんな考えが頭をよぎる。

 グループラインに送った
 「今日は行けなくてごめんね」のメッセージ。

 既読はついているのに、返事はまだ来ていない。
 (まさか、まだ盛り上がってるとか?)

 そう思って、
 それ以上深く考えないようにした。

 翌日は、スカイツリーと浅草寺を回った。

 観光客に混じって歩きながら、
 母は楽しそうに写真を撮り、
 春奈はそれを横で見守っていた。

 上野から新幹線に乗り込む母を見送って、
 ひとりになったホームで、
 急に静けさが戻ってくる。
 (ああ、また東京の日常だ)

 その夜になって、
 ようやくグループラインが動いた。

  『ごめん、昨日飲みすぎた……』

  『二日酔いで死んでる』

  『日曜もたぶん無理』

 三人とも、似たような内容だった。
 (……そんなに楽しかったんだ)

 少しだけ、胸の奥がひやりとする。
 笑い合っている姿が、
 勝手に浮かんでしまっている。
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