窓明かりの群れに揺れる
　月曜日。
　いつもの朝、いつものオフィス。

　恵は、なぜかやけに元気だった。

　声も大きくて、冗談も多くて、
　二日酔いの後とは思えないほど。

　一方、達也は――
　どこか視線を合わせにくい。

　「この前は……ごめん。飲みすぎた」

　そう言って、少し言葉を濁す。

　春奈は、「気にしないでください」と笑って返した。
　（反省してるだけ、かな）

　それ以上、深くは考えなかった。

　その後も、
　達也とは何度か夕飯を一緒に食べた。

　でも、
　あの日みたいに距離が縮まることはなくて、
　ホテルの話も、特別な誘いもない。

　メッセージも、
　どこか当たり障りのないやり取りばかり。
　（……あのとき、許してしまえばよかったのかな）

　そんな思いが、
　胸の奥で、静かに浮かんでは消える。

　それでも春奈は、
　何も言わず、待つことを選んだ。

　恵は相変わらず明るかった。

　でも、ここ最近、
　急に会社を休んだ。

　「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけ」

　そう言って笑うけれど、
　どこか無理をしているようにも見える。
　（……何か、あったのかな）

　飲み会のあとから、
　会社の空気が、
　ほんの少しだけ変わった気がしていた。

　理由はわからない。

　でも春奈は、
　その違和感を、はっきりと言葉にできないまま、
　胸の奥にしまい込んでいた。
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