これはもはや事故です!
美羽がベッドルームに引っ込んでから、しばらくして、磯崎はソファに座ったまま、天井を見上げていた。
(……何やってるんだ、俺)
さっきまでの光景が、脳裏に勝手に再生される。
目を閉じて、少し背伸びをして。
あれ以上ないくらい必死な顔で。
触れたか触れないかの――あのキス。
喉が、こくりと鳴った。
(……反則だろ)
あんなの。
冗談のつもりで言ったはずなのに。
クッションに顔を埋める。
「……参ったな」
声に出してみても、何も解決しない。
大人の男としては、余裕を持って受け止めたつもりだった。
――それなのに。
「反則だろ……」
胸の奥が、やけに落ち着かない。
(あんな顔、するなよ……)
照れて、逃げるように視線を逸らして、
でも、ちゃんと自分から近づいてきた。
思い出すたび、口元が緩みそうになって、慌てて引き締める。
(……今日はもう、仕事どころじゃないな)
磯崎は、立ち上がり、キッチンに行くと冷蔵庫を開けた。
良く冷えたペットボトルを取り出し、グラスに注ぐ。
頭を冷やすように、一気に飲み干す。
時計を見ると、もう、とっくに寝る時間になっていた。
(……守るって、決めたんだ)
急がない。
奪わない。
彼女が自分で踏み出すまで、待つ。
そう決めたはずなのに――。
「好きだ」なんて言葉よりも、
あの小さなキスの方が、ずっと胸に響いていた。
磯崎は、静かに息を吐く。
「……今日は、だめだな」
誰に言うでもなく、苦笑する。
照れて眠れない夜なんて、何年ぶりだろう。
それでも、不思議と嫌じゃなかった。
(……おやすみ、美羽さん)
心の中でそう呟いて、ようやく目を閉じる。