これはもはや事故です!
 磯崎が不思議そうに少し首を傾げる。

「何か隠してないか?」

「してません! ……たぶん」

「“たぶん”は禁止な」

 磯崎に真顔で言われて、美羽は思わず吹き出す。

「はい、禁止します……」

「ん、」
磯崎は満足そうにうなずいて、キッチンに向かった。
少しして、戻って来ると両手にはおそろいのマグカップ。
その1つを美羽に手渡す。

「カフェイン控えめ。夜だからな」

(こういうところ……ほんと、ずるい)

 美羽はマグを両手で包みながら、ちらりと磯崎を見る。

(前に優佳も言ってたけど……
 大切にされてる、ってこういうことなんだと思う)

 ふと、思い出す。

 足を痛めた夜。
 何も言わずに抱き上げてくれた、あの腕。

(……あのお姫様抱っこ)

 今も距離は近い。
 でも、触れない距離。

 触れないのに、意識してしまう。

(……この空間、地味に緊張感すごくない?)

 沈黙が落ちる。
 美羽の視線は、自然と磯崎の唇に固定されていた。

(私……磯崎さんと……)
 テレビはついているのに、内容はまったく頭に入らなかった。
 美羽の心臓は、少しうるさくなる。
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