これはもはや事故です!
抱き寄せられた胸元で、美羽の呼吸が少しずつ上がる。
 
 磯崎の体温が、じわりと伝わり、背中に回された手は、包み込むように優しく離れない。
 ただ、そこにあるだけなのに、逃げられない。

 美羽は、無意識に指先を動かし、磯崎のシャツを掴んでいた。
 それに気づいた瞬間、胸がきゅっと縮む。

(……私、何して……)

 けれど、その手を止める前に、磯崎の親指が、確かめるように美羽の首筋をなぞった。
 

 その小さな動きだけで、身体が熱を帯びていくのが分かる。

 額に、頬に、髪に。
 触れるか触れないかの距離で、息が落ちる。

「……嫌じゃないか?」

 低く、抑えた声。
 その問いかけに、美羽は優しさを感じた。

(まだ、逃がそうとしてくれてる……)

 美羽は、首を横に振る代わりに、ほんの少しだけ、身体を預けた。
 それだけで、磯崎の腕に力がこもる。

 唇が、もう一度触れる。
 今度は、さっきより、ほんの少し長く。

 胸の奥が甘く痺れ、思考を溶かす。

 考える余裕なんて、なかった。
 ここにいる理由も、役に立つかどうかも……全部、どうでもよくなる。

 ただ、この腕の中にいることが、怖くなくて。
 離れたくないと思ってしまった、それだけだった。
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