これはもはや事故です!
 美羽は瞳を潤ませながら、身体を磯崎へ預けた。
 彼女から漂う、甘い花のような香りが、いっそう濃くなる。
 それだけで、磯崎の胸に溜めていた理性が、音もなく軋んだ。

 腕の中で、美羽が小さく息を吐き出し、無意識に上目遣いで磯崎を見上げる。
 その様子は、怯えていない。
 けれど、慣れてもいない。

 磯崎には、その微妙な温度がいちばん堪えた。

(……まずいな)

 そう思いながら、離せない。
 美羽の背中に回した手に、ほんの少しだけ力が入る。

 守るつもりで触れていたはずなのに、触れているうちに、欲が混じる。

 それでも、急ぐ気には、なれなかった。

 美羽は、奥手だ。
 それを磯崎は、わかっていた。
 けれど、25歳という彼女の年齢は子どもじゃない。

 腕の中で、彼女の指先が、ためらいがちに磯崎の服を掴む。
 それは助けを求める仕草じゃない。
 離れないで、という合図だった。

 胸の奥が、きゅっと締め付けられる。

「……怖くないか」

 自分でも驚くほど、声が低かった。

 美羽は、首を横に振る代わりに、額を磯崎の肩につけ、凭れさせる。
 その重みが、決定打だった。

(……もう、戻れないな)
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