これはもはや事故です!
 あの時、あの道をたまたま通ってしまった自分の運の無さを嘆きたくなる。
 すると、美羽の独り言が聞こえたのか、磯崎は申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「帰りのタクシーを呼んだから」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、つかまって」

 そう言うと、磯崎は当たり前のように体を屈め、両腕を広げてきた。

「ほら、抱き上げるから、俺の首に腕をまわして」

「い、いやっ、固定されたし、そこまでしていただかなくても!」

 お医者さんの処置を終えた今、そこまでして貰うのも躊躇い、慌てて拒否した。けど、磯崎は眉をひそめて言った。

「だめだよ。まだ痛いだろ?」

 その声が、ほんの少しだけ低くて、命令とも、心配ともとれる……。それをどう受け止めたらいいのかわからない美羽は、なんだか、ずるいと感じた。

「……正直言って、痛いです」

「じゃあ、頼ってくれる?」

「……はい」

 観念して腕を伸ばした瞬間、ふわっと柔らかい香りに包まれた。

 オリエンタル系の香水。
 スーツの襟元から微かに漂うその匂いは、いつもの冷静な弁護士のイメージと違って、妙に、美羽の胸の奥をざわつかせる。
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