これはもはや事故です!
 磯崎の腕が美羽の背と膝裏に入り、簡単に持ち上げる。

「軽いな……ちゃんと食べてる?」

 そんな余裕のある声が耳元に落ちてきて、美羽は一瞬、呼吸を忘れた。

(や、やめて。その距離感……近すぎる……!)

 耳元に触れる息の温度が、変にリアルで、声優ボイスのドラマCDより、グッとくる……。

「帰るよ」

 短く囁かれたその言葉に、意味なんて当然ないはずなのに、妙に心臓が跳ねた。

「私の住所……」

 言いかけて、ふと美羽の脳裏に浮かぶ。

 築24年のマンションは、エレベーターがない代わりに家賃が少し安い。
 そのマンションの3階の部屋までの階段。
 手すりはある。でも怪我した状態で登れる自信は……ほぼゼロ。

(気合いでどうにか……いやでも……。)

「家に帰るのキツそうだな。ひとり暮らしなんだろ?部屋何階?」

「⋯⋯3階です」

「もしかして……階段?」

「手すりもありますから!」

「手すりは添えるもの。君は今、それを握りしめて這い上がる状態だよ」

「……うっ」

 めちゃくちゃ正論で返される。
 反論できない自分が悔しい美羽だった。
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