これはもはや事故です!
「大丈夫か!?」

 低い声が、まるで地面から引き上げるように届いた。
 美羽の視界の端に、スーツ姿の磯崎が飛び込んでくる。
 すぐに肩を支えられ、温かい腕に抱き起こされていた。

「どこ痛い?」

「……あ、足……たぶん、ひねった……みたい」

 磯崎の手が美羽の足首に触れた瞬間、激痛が走り、思わず息を呑む。

「痛っ……」

「くそっ!」

 吐き捨てるような声。
 顔を上げた磯崎の眉間がギュッと寄っていた。

 普段、カフェで買い物をしている穏やかな弁護士とはまったく違う、底の冷えた鋭い目をしている。

「おい、君たち!」

 磯崎が女二人へ向き直った瞬間、空気がピンと張りつめた。

 先に手を出した方の長髪の女は震えながらも声を上げる。

「ち、ちがっ……!わざとじゃないの!この女が勝手にそこにいたから……」

「この女?」

 一瞬で温度が下がった。

 磯崎の声が、冷たく低く刺さる。

「関係のない女性を巻き込み、怪我をさせた。それを“この女”で済ますつもりか?」

「っ……!」

 長髪の女が青ざめる。
美羽にぶつかったショートボブの女は唇を噛み、泣き出しそうに縮こまった。

「だって……」

 言い訳をしようとする声を、磯崎は遮る。

「だってじゃない!君たちの私的な感情と執着で、まったく無関係の彼女が巻き込まれ、怪我をしたんだ。ただの痴話喧嘩じゃ済まない」

 静かなのに、怖い声。
 怒鳴るより何倍も響く。

 

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