これはもはや事故です!
美羽は、彼の腕の中で動けないまま、その声に圧倒されていた。

 磯崎は美羽へ視線を戻す。

「……立てるか?」

「む、無理……っ」

「だろうな」

 その言葉と同時に、腰の下に腕がまわる。

「ちょ、ちょっと待ってっ!? 」

「歩かせられる状態じゃない」

「で、でも……」

「いいから」

 反論が続く前に、ふわっと美羽の身体が宙に浮いた。

「えっ?」

 気づけば、しっかりと磯崎の腕の中だった。

(む、無理……近すぎ……!っていうか、普通にお姫様抱っこ……!?)

 そんな美羽の混乱をよそに、磯崎は女達へ短く言い放つ。

「後で話をする。逃げるなよ」

 二人は恐怖に顔を引きつらせ、動けずにいる。

 磯崎は美羽を抱えたまま、歩き出した。

「ま、待って……!降ろしてくださいっ……!」

「ダメだ。今は病院が先」

 冷静で、断れない声に美羽は磯崎の胸元にしがみつくしかなかった。

磯崎の温かく広い胸。
しっかりと支えてくれる腕。
 ほのかにオリエンタルノートが鼻腔をくすぐる。

(……だめだ……心臓が……)

「安心しろ。必ず治すから」

 小さく呟くような声が、耳元で落ちた。
 その言葉は、痛みよりもずっと、美羽の心を揺らした。


 
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