夫のいない間に
「特に理由はないんですけど、ちょっと懐かしくなったんじゃないですかね? 吉岡さんの後釜の事務員も辞めちゃったし」

「え、そうなんだ」

 甘いクリーミーなカクテル、″ アレキサンダー ″を口にしながら、どこか苦い顔をする井戸端さんは、爽やかな顔をしていても、常に浮気願望のある人だった。
 在職中、そういう話は沢山した。

 この人は、その辞めた事務員さんを好きだったのかもしれない。

 「あれ、吉岡さん、ピッチ早くないですか?」

 カクテルの女王と言われる ″マンハッタン ″を、さほど好きでもないのに、あっという間に飲み干した。

 恋の話は、自らがしてこそ楽しいもの。
 今の私には、不要なものだ。

 「マスター、″マティーニ ″ください」

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