夫のいない間に
 自宅に戻りストールを外した。
 別に冷え性でも何でもないから、ただ暑苦しいだけだった。
 寝室の電気を点けて、メイクも落とさずにベッドに横たわる。
 顔がべたべたして、痒くて気持ち悪かった。

 折角、風呂に入ったのに。
 無意味な化粧してバカみたい。

 起き上がって、鏡台の引き出しに入れていた ″アレ ″を、そっと取り出した。

 離婚届。

 私の署名と捺印は済んでいる。

 およそ、十年前に私が勝手に役所から取って仕舞っておいたものだ。
 夫は知らない。

 十年前。
 どっちが先に浮気をしたのかは、定かではないけど。
 ただ、あの頃は、もう、無理だと思った。
 一緒にはいられない、と。

 キッカケは些細な事だった。



 「お母さんが運ばれたの」
 
 独り身の実母が倒れた時に、入院代を立て替えて欲しいと、夫にお願いしたのだけど。

 「俺の母さんじゃないから」

  そう突き放されて、何て冷たいんだ、世間や社会には良い顔をするくせに、身内や弱いものには、なんて薄情なんだろうと、みるみる、私の夫への信頼は失われた。

  この時から、ずっと疑問だった。
  結婚って、夫婦って、なんなの?と。


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