夫のいない間に
「なんだよ、今日は弁当要らないって言ったのに」

居間から息子、健次(けんじ)のふて腐れた声が聞こえてやや急ぎ足で戻る。

「聞いてないわよ、だから三人分作ったのよ」

私と、二十歳になる娘の 理名(りな)の分と三つ。大きさの違った弁当箱をテーブルに並べていた。

子ども達が好きな唐揚げと卵焼きがメインの、色彩にこだわったカラフルなお弁当。
 それなのに、息子はつれない事を言う。

「今日は学食の冷やし中華食べるから、俺の分、父さんに持たせれば? ……ってもう出掛けたの?」

いつもより早い時間の夫の不在に気が付いた。

「長期の旅行だって」

私の返事に特に違和感を持たないまま、専門学校に行く支度を始める。

「学校終わったら、そのまんま友達と出掛けるから夕飯も要らない」

私の顔を見る事もなく玄関に向かった健次に、私は小遣いを渡した。

「え?」
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