夫のいない間に
健次が目を丸くして、私が握らせた一万円札を見た。

「何?……」

まるで偽札でも見たような、訝しげな顔だ。

「遊びに行くんでしょ? お母さんからあんた達にお小遣いあげたことないから、はい 」

「珍し……アザぁっす」

親に言うには不自然な礼を言って、健次は出掛けていく。

続けて理名にも同じように小遣いを渡した。
成人してからは、恐らく父親からも貰ってなかっただろう。
そんな理名もまた。訝しげな目付きをした。

「パート代の1/8 消えるんじゃないの?」

情けない心配をされたが、気分は良かった。

今まで、子ども達の誕生日プレゼントもやクリスマスプレゼント、お年玉も渡すのは夫の役目で 、″ありがとう″ を貰うのは、いつもあの人だけだった。

 






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