夫のいない間に
 心臓が止まるかと思った。

 誰の事いってるの?

 悟くん?
 彼とは十年前に終わってるのに?

 それとも、前の会社の伊吹さんのこと?

 どっちにしても、昔のこと。
 夫はおろか、子供達には知られていないと思っていた。

 言葉が出てこない私を、理名が漆黒の瞳で貫き続ける。

 「他人に恋してるお母さんから離れたいと思うのは普通なんじゃないの? お母さんが悪いんだよ! お父さんが仕事放って旅行なんて、絶対におかしいもん!」
 

 TVもついていない、マキロンもいない静かな部屋に娘の声が響いた。

 「理名、やめろよ。そんなこと今さら言ったってしょうがないじゃんか」

  二階から降りてきた健次が、姉をなだめる。

  ――もう、終わりだ。


 どっちが先に裏切ったのかは分からない。

 どんなに夫への信頼を失ったとしても、それを理由に、子供達からの信用を無くしたら、もう家庭は終わりだ。




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