すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 父の前では意地でも元気を装って見せたものの、ここのところ体が重い。不安であまりよく眠れていないし、食欲もわかない日が続いている。

 でもただでさえ職場で融通を利いてもらっているのだから、会社の皆に迷惑をかけられない。体は限界を訴えてくるが、気にしていられなかった。

 そんな無理がいけなかったのだろう。
 翌日の夕方のこと。必要なものを買い足して病院へ向かおうと信号待ちをしていたとき、ふらりと体が傾いた。

 あわやというところを、居合わせた男性に助けられた。
 あの人がいなかったら、私はどうなっていたかわからない。病院にまで付き添ってもらい、さらにはタクシーも手配されていた。

 迷惑をかけたというのに、言葉でお礼を言うくらいしかできなかったのが申し訳ない。
 さすがに私もさすがに反省して、昨夜は食事をしっかり食べていつもより早い時間にベッドに入った。
 しっかり休息をとれたため、今日は寝起きから頭がすっきりしている。

「お父さん。昨日はお見舞いに来れなくてごめんね」

「毎日じゃなくていいって、言っているだろう」

 困った顔で私を迎え入れた父にかまわず、洗濯物の整理をする。

「調子はどう? ご飯はしっかり食べてる?」

「ああ、大丈夫だ」

「これ、気が向いたら読めるように」

 退屈しないようにと、自宅のポストに届いていた航空業界に関する情報を扱う月刊誌を置いておく。飛行機マニアの父は、この雑誌を長年定期購読している。

「ありがとう」

 表情を明るくした父に、私も自然と笑みが浮かんだ。
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