すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 片づけを終えた頃、病室をノックする音が響いた。
 先生かもしれないと考えながら、父と視線を合わせる。

「どうぞ」

 私が促すと、入口のカーテンをめくってスーツ姿の男性が入室してきた。

「失礼します」

 見覚えがあるその人に驚き、目を見開く。
 絶句する私に気づかず、父は「ああ」と納得したようにこぼした。

拓真(たくま)君じゃないか。久しぶりだな」

 チラリとこちらを見て驚いた顔をした彼は、それからすっと穏やかな表情に切り替えた。

「ええ。父に、雄大さんが入院したと聞いて」

 親し気な口調と眉を下げて心配そうに父を見るその様子に、もしかしてふたりには長い付き合いがあるのかと感じた。
 それから彼は、サイドテーブルに置かれた月刊誌に気づいて小さく笑った。

「相変わらずですね。俺からはこれを。花よりも、雄大さんにはこっちでしょ?」

 彼がかばんから取り出したのは、最近発売されたばかりだという飛行機の模型だ。

「おお、ありがとう。さすが拓真君。わかってるじゃないか」

 サイドテーブルに置かれた模型を、父は目を輝かせて見つめた。

 父との会話を終えた彼が、こちらを見る。
 我に返った私は、慌てて立ち上がった。

「あ、あの、昨日はありがとうございました」

 ばっと頭を下げる。
 私を助けてくれた人が、まさか父の知り合いだとは思わなかった。
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