すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「なにか、あったのか?」

 私たちの間で不思議そうに視線を行き来させる父に、彼が助けてくれた話を手短に明かす。ただし、疲労で倒れかけたという部分は転びそうになってとごまかした。彼にも話を合わせてほしいと視線で必死に訴えると、小さくうなずき返してくれる。

「そうか。悠里を助けてくれて、ありがとうな」

「偶然、通りかかっただけですよ。それより、雄大さと彼女は……?」

「娘の悠里だよ。子どもの頃に一度顔を合わせているはずだが、さすがに覚えていないか?」

 わずかに目を見開いた彼には、父の言う記憶があるのかもしれない。
 残念ながら私は思い出せない。幼少期の私は工場で過ごす時間が長かったから、もしかしたらそこで出会っていたのだろうか。

「それにしても、悠里」

 少し口調を変えた父に、無意識に身構える。子どもの頃から何度も感じたこの雰囲気は、叱られる前触れだ。

「父さんの言えたことじゃないが、無理はしてくれるな」

「う、うん。ごめんなさい」

 萎れる私に彼が味方をしてくれる様子はなく、うなずいて父に同意している。

「ほら、今夜はそろそろ帰るんだ。食事もしっかりとるんだぞ」

「わかった」
 
 父に追い立てられて、慌ててバッグを掴む。

「長居をすると迷惑だろうから、俺もこれで帰りますね。雄大さんも、しっかり休んでくださいよ。また顔を見に来ますから」

「ありがとな」
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