すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 いよいよパイロットのライセンスの取得のための渡米を控えていた頃。いずれ自分がOAJのトップに立つという重責に漠然とした不安がわき起こり、思いつきで何年かぶりに雄大さんのもとを訪れた。

「大きくなったなあ」

 彼は俺の訪問を歓迎し、行きつけの料理屋へ連れて行ってくれた。
 気がかりだったひとり娘の悠里は、部活に勉強に忙しくしているのだという。さすがにひとりを寂しく感じる年の頃は過ぎたのだろう。

 雄大さんとの久しぶりの対面に、最初こそ気恥ずかしかった。
 けれど、あの頃と変わらず自然体で接してくれる様子に緊張がほぐれていく。聞き上手な雄大さんに、いつの間にか自身の心の内を明かしていた。

「不安があって当然だろ。僕だってそうだ。自分が判断を間違えれば、従業員らが路頭に迷うことになりかねないからな」

「その不安と、どう向き合っているんですか?」

 父親相手では、気恥ずかしくてなかなか聞けない。

「普段から、従業員との信頼関係を築くことかな。立場とか関係なく、思ったことを言い合える環境づくりを大切にしている。そんな雰囲気なら、僕がなにか間違ったことをしかけても注意してくれるだろ」

 子どもの頃に訪れた川島金属機器は、たしかにそんなアットホームな様子だった。
 社長という立場にありながら、雄大さんは従業員の前で悠里に叱られる姿も隠していなかった。さらに従業員らも、冗談交じりに悠里を持ち上げて皆で笑い合う。もちろん、彼らは礼儀を忘れていない。

 だがあの空気感なら、社長が相手でも臆せず物申せるのだろう。

 父が俺を関連企業に連れて回っていたのは、おそらくこういう感覚を大切にしろと伝えたかったのもあるはず。その最たる姿を、あの頃の雄大さんは意図せず見せてくれていた。
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