すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「そろそろ切りをつけて、美味しものでも食べに行こうよ」

 少しでも父を元気づけたくて明るく誘う。

「そうだな。よし、帰る準備をするか」

 物心つく前に母親を亡くしているため、父娘のふたりきりで暮らしている。男手ひとつで私を育ててくれた父には、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 いつもは私が夕飯の用意を担当しているけれど、遅くなった日くらい外食をしても許されるだろう。

 あっさりしたものがいいと意見が合い、うどん屋に立ち寄った。ふたりとも冷たいメニューを頼んだのだけれど、ここでも父は半分ほどしか食べられず。

「夏バテだったらそれはそれでいいから、明日こそ、病院に行こう? 午後からなら、私も付き合えるから」

 父の体調を考慮して、自宅までタクシーで帰ることにした。

「明日の午後、病院に連れて行くからね」

 後部座席に並んで座り、もう一度念を押すように言う。
 父に任せていたら、時間がないとかそこまでじゃないからと言い訳して受診を先延ばしにしそうだ。

「だがなあ……」

「お父さんには、お母さんの分まで長生きしてほしいんだから」

 渋る父に焦れて、さらに言い募る。こんなふうに言われたら、絶対に断れないとわかっての発言だ。

「……そうだな」

 ようやく受け入れてくれて、大きく安堵した。





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