すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「こんなにも俺を慕ってくれて」

 頬をさらりとなでられて、全身がビクッと跳ねる。

 私の好意なんて、ここまでの言動ですっかりバレているのかもしれない。そう思うとますます恥ずかしくて、一気に頬が熱くなった。

 不意に腕を引かれて、彼の胸もとに飛び込む。なにが起こったのかわからない間にふわりと抱きしめられていた。
彼が私の首筋に顔を埋める。

「そんなふうに言われ続けたら、たまらない」

 近すぎる距離と肌を掠める吐息に、背中がゾクゾクする。
 彼の腕にぐっと力がこもる。それからわずかに体を離して、至近距離から見つめられた。

 視線を逸らすこともできず、羞恥心にジワリと目が滲む。

「君を、俺のものにしたい」

 経験がなくても、その言葉がなにを意味しているのかくらいわかる。
 最後に思い出がほしいと望んだのは私だ。ただそれは、彼と一緒に楽しい時間を過ごすくらいのことだと想像していた。

 どう答えていいのかわからない。
 戸惑いと恥ずかしさに、私の視線が揺れる。

 けれど恥ずかしさはあっても、嫌だとか無理だなんて思わない。

 お互いに種類の違いはあっても、好意的は確かにあるはず。
 彼の方から求めてくれるのなら応えたい。素敵な思い出があれば、この先も不安に負けないで自分らしくいられる気がする。

 ますます潤む瞳で彼を見つめながら、小さくひとつうなずく。

 それを待っていたかのように、柴崎さんはゆっくりと私に口づけた。

 瞼を閉じて、彼を受け入れる。
 彼は私と同じ気持ちではないとわかっている。
 でも初めてキスを交わす相手が、心から好きになった人だという幸福に浸れば、それは些細な事のように思えてきた。
< 54 / 183 >

この作品をシェア

pagetop