すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「ここへはちょくちょく顔を出すつもりだし、お父さんは自分のことだけを考えていてよ」

 いくら慰めの言葉をかけても、父は困ったように眉を下げたままだ。大丈夫だと不調をごまかし続けてきたことを、私が思う以上に大きく後悔しているのだろう。

「お父さんには、早く良くなってもらわないとみんなが困るんだからね。川島金属機器は小さな町工場だけど、うちにしか作れない飛行機の部品があるでしょ。その技術をずっと守っていくんだって、お父さんいつも言ってるじゃない」

 その旗振り役がいなくては皆の士気も下がってしまうと、力説する。

 うちは小さな会社だから従業員はそれほど多くなくて、和気あいあいとした雰囲気の会社だ。
 母親がいなかった私は、幼稚園や学校から帰ると父の仕事が終わるまで工場で過ごしていた。たまに手の空いた人が遊び相手になってくれて、まるで家族のような関係を築いている。

 無類の飛行機好きで仕事に対して熱い父を皆が慕い、不景気で経営危機に陥りそうだったときも信じてついてきてくれた人たちばかりだ。そんな彼らは、今回の父の入院をいたく心配している。

「みんな、お父さんの復帰を待ってるんだからね」

 父にはまだまだやることがたくさんある。だから、病気なんて気合で吹き飛ばしてしまえるはず。
 私自身にもそう言い聞かせながら、父に別れを告げて久しぶりにひとりで過ごす自宅へ帰った。



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