すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 翌日も、仕事の後に病院に顔を出した。
 父は『今回はただの検査入院だから、見舞いはなくていい』というが、それでは私の気が治まらない。

 そうして不安な三日間が過ぎ、診断結果を聞くために父と共に医師の対面に座った。

「肺がんですね」

 予想していたとはいえ、重病の宣告に息をのむ。
 私たちが落ち着くのを待って、医師はレントゲン写真を示しながら現状を説明してくれた。

「タバコなんてまったく吸わないし、周囲に喫煙者もいないのに」

 思わず恨み節が口を突いて出る。

「まあ、たばこだけが原因ではないですからね」
 父はたまに知り合いと飲みに行くことはあっても、健康を害すような無茶はしないひとだ。野菜を多く食べるように食事は私がそれなりに気をつけてきたし、本人も年齢以上に若い気分で日々はつらつと過ごしていた。

 どうして父がと、思わずにはいられない。

「今後の治療方針ですが」

〝がん〟も治せる時代だと、以前テレビ番組で言っていた気がする。
 けれどいざ身近な人がそうなると、どうしても悪い想像ばかりしてしまう。

「まずは手術で主要部分を切除します。その後は抗がん剤を投与して、全身に広がる可能性のあるがん細胞をたたいていきます」

 それから手術の日程などを確認し、父はそのまま入院を続けることになった。

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