すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 玄関の扉を開けた途端に、そんなつもりはなかったのに涙が溢れてくる。

 父がいなくなった上に、思い出の詰まったこの家まで手放さなくてはいけないのかと悔しくなる。

 これまでまじめに仕事に取り組んできたのに、不要な存在だと思われているような雰囲気に心が折れそうだった。

 私を気遣うように見せてはいた叔父も、今日はどこかとげとげしさを感じた。

 味方がひとりもいなくなってしまったようで、不安しかない。

 柴崎さんからも、連絡はまだ来ていない。すっかり失念していたけれど、今夜こそ彼に父のことを報告しようと思っていた。

 でも今の私には、とてもそんな気力は残っていなかった。



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