すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 翌日になると、朝早くに叔父が手配したという業者がやってきた。

「悠里ちゃんの手を煩わすようなことはないから。ほら、ここが君の住む新しい家だ」

 タイミングを同じくしてやってきた叔父が、住所の書かれた紙と鍵を手渡してくる。
 朝から体調が悪い中、押しかけるようにしてやってきた彼らに対抗できるような力が出ない。
 昨夜なんとかまとめた荷物を手にすると、後ろ髪を引かれる思いで自宅を後にした。

 スマホで調べながら、電車を乗り継いで指示された住所へ向かう。

「ここ……?」

 ひとりで住むのならそれほど広くなくてかまわないが、目の前に建つのは築年数がかなり経っていそうなアパートだった。

 叔父は防犯面も心配だと話していたはずなのに、ここはセキュリティーが十分だとはとても言えない。エントランスや共有廊下などはなく、玄関はそのまま外に面しているため誰でも近づけてしまう。

 しかも指定された部屋は一階だ。セキュリティー会社のステッカーなどはなく、ガラス窓を割れば外から簡単に侵入できてしまう。

 会社からもずいぶん離れており、通勤も不便だ。どうしてこのアパートなのかと考えて、叔父には嫌われていたのかもしれないと、目を背けてきた正解を認めざるをえなくなる。

 とりあえず、持たされた鍵で中に入る。

 部屋は、入ったすぐに小さなキッチンがあるワンルームだ。バスとトイレは一体型になっている。浴槽は膝を畳めばなんとか座れる程度の広さで、入浴はシャワーだけになりそうだ。
 後ほど布団や必要な生活用品は送ってもらえるはずだが、荷物が届いたところで快適な生活ができるとはとても思えない。

 でも、仕方がないのだろう。本来の私の稼ぎだけで都内での生活を維持するのなら、高望みはできない。たとえ叔父が動いていなくても、いずれは自分の意思であの家を手放すことになっていたのかもしれない。

「はあ……」

 それでも、もう少し猶予がほしかった。

 どうしてこうなってしまったのかと、ため息をつきながら部屋の隅に座り込む。
 職場でも私生活でも、どんどん追い詰められていくようで怖くてたまらない。そんな中で熟睡できるはずもなく、ただひたすら現実から目を背けるように瞼を閉じていた。
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