離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
結婚をする上でお互いのことを話し合うことになり、六花の身の上を知ることになる。
まさか母親が出て行き、父親は病死して遺された借金を背負わされていたとは思わなかった。
(だから突然来なくなったのか。それどころじゃなくなったんだろうな)
惺久は六花の話を聞いていて思い出したことがあった。
昨年古賀冬実という五十代女性の依頼を受けた。
交際相手に暴力を振るわれているが、別れることもできず我慢を強いられているという。友人に付き添われ、事務所に相談しに来た。
冬実は憔悴し切っており、涙ながらに交際相手から受けた仕打ちを話した。
惺久は「もう大丈夫ですよ」と優しく微笑み、交際相手にDVの訴訟を起こし見事に勝利した。
「本当にありがとうございました。永瀬先生のおかげで別れられましたし、慰謝料まで……」
冬実は何度も何度もお礼を言った。
相談をしに来た当時と比べると、顔色が明るくなっていた。
「実は私、娘がいるんです。もう何年も会っていないんですけれど」
「そうなのですか」
「元旦那に愛想を尽かして私から出て行きました。娘は悪くないのに娘のこともほったらかしにして、酷い母親なんです」
冬実は悲しそうに眉を下げる。
「何年も経ってから知ったのですが、元旦那は癌で亡くなっていました。娘に会いに行こうとしましたが、できませんでした」
「居場所がわからないからですか?」
「それもありますが、きっと私のことを恨んでいるでしょうし会わせる顔なんてないと思ったんです」