離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
思わず両肩を掴み、迫るようなことをしてしまった。
六花は困惑しながら聞き返した。
「すみません、何のことでしょうか……?」
(ああ、そうだよな)
覚えているわけがなかった。
そもそもあの時、惺久は名乗らなかったのだ。
合格したら教えるなどと言って、結局名前を教えることはなかった。
「……失礼しました。今のは、忘れてください」
六花から手を離した。六花は尚も戸惑ったように惺久を見つめている。
本気で覚えていないようだ。
だが、惺久は一人で納得していた。
素顔も知らない初対面の女性にあんなにも惹かれたのは、彼女が六花だったから。
初めて会った気がしないと思っていた自分の直感は当たっていた。
(すっかり大人になって、綺麗になったんだな)
その時、惺久はあることを思いついた。
それが一年限りの契約結婚だった。
祖父から見合いをさせられそうになっているのは本当のことなので、その話を少し盛って契約結婚を待ちかけた。
我ながら詐欺師かと思うくらい、スラスラと淀みなく喋っていた。
「これからよろしくお願いします――六花さん」
「……よろしくお願いします」
本物の夏芭の後押しもあり、契約結婚は成立した。
しかし惺久は一年で終わらせるつもりなど毛頭なかった。
(今度は絶対に離さない)