離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 本人確認はなかった。
 若干震える手で仮面を受け取り、背中から冷や汗が出た。
 心臓がまだバクバクと高鳴っている。

 クロークに荷物を預け、靴を履き替えた。
 トイレに行って鏡の前で大きく息を吐く。

 スタッフは六花のことを涼風夏芭と呼んだ。
 当たり前だ、この招待状を受け取ったのは夏芭なのだから。
 六花はこれから夏芭としてパーティーに参加するのである。

 仮面で素顔を隠すどころか、自分自身すらを偽ってパーティーに参加するのだ。


(顔を隠すとはいえ夏芭を名乗るわけだから、ちゃんとしなきゃ。夏芭の印象を悪くするようなことは、絶対しない)


 招待状の注意事項によると、パーティー中は仮面を外してはいけないが参加者同士の交流に制限はないらしい。
 パーティーの雰囲気がわかっていないが、せっかくなら夏芭のために仕事に繋がる縁に恵まれたらいいなと思う。


(後日会うことになっても顔は隠しているわけだし、実は別人だったなんて思われないよね?)


 夏芭の名刺は百枚程預かっているので、連絡先を聞かれた際はこれを渡すつもりだ。

 六花は仮面を付けてトイレを出た。
 これから未知のマスカレードパーティーが始まる。

 一夜限り、煌びやかで非日常的な世界へと足を踏み入れるのだ――。


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