離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
もう帰ろうと思った。一枚くらい誰かに名刺を渡したかったが、話しかける勇気すら持てない。
(ごめん、夏芭)
会場から出ようとした時、突然誰かにぶつかった。
「きゃっ」
弾き飛ばされるようにして、六花はその場に倒れ込んでしまう。
その時、足を変な方向に挫いたまま転んでしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
「は、はい」
足首のあたりにズキズキとした痛みを感じる。
だがぶつかられたとはいえ転んでしまったことが恥ずかしく、すぐに起き上がろうとして青ざめた。
なんとパンプスのヒールが折れてしまっていたのだ。
「ど、どうしよう……!」
夏芭から貸してもらったハイブランドのパンプスなのに、まさかヒールを折ってしまうなんて。
顔面蒼白になる六花にぶつかった男性が深々と頭を下げて謝罪した。
「申し訳ございません、僕のせいです」
「いえ……」
「弁償させてください」
「えっ?」
その時やっとその人の顔を見た。と言っても仮面を付けているので素顔はわからない。
だが艶やかな黒髪と仮面から覗く漆黒の瞳が美しく、思わずハッとさせられた。
「失礼いたします」
「……え?」
六花の身体が宙に浮いたかと思うと、男性に横抱きにされていた。
突然のことに頭が追いつかない。
男性は周囲の視線を気にせず、平然と六花を抱えて会場から出た。
「あ、あの! 下ろしてくださいっ」