離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 紳士的にエスコートされるのが慣れず、ドギマギしてしまう。
 ソファの席に案内され、腰を沈めると少しだけ足の痛みから解放された。


「何を飲まれますか?」
「えっと、赤ワインで」
「では赤ワインのグラスを二つお願いします」


 赤ワインが運ばれてくる前に、男性は改めて深々と頭を下げた。


「この度は申し訳ございませんでした」
「いえ、大丈夫です。私もぼうっとしていましたから」
「靴は弁償させてください。どちらのブランドでしょうか?」
「え、えっと……大丈夫です」


 夏芭に貸してもらったパンプスなのでブランドがどこのものかわからない。ハイブランドであることは間違いないだろうが。

 だが自分の靴なのにどこのブランドかわからないのはおかしいので、曖昧に濁した。


「修理すればまだ履けますから」
「では修理代を払わせてください」


 そう言うとスーツの胸ポケットから名刺を取り出し、六花に向かって差し出す。


永瀬(ながせ)惺久(はるひさ)と申します。弁護士をしております」


 名刺の肩書きは永瀬法律事務所となっていた。
 六花も慌てて名刺を渡そうとしたが、思い留まった。


(靴の修理の件で直接夏芭に連絡がいくのは困る……!)


 出しかけた名刺入れを引っ込め、ニッコリと笑みを浮かべる。


「涼風夏芭です。すみません、名刺は切らしてしまいまして……」


 名乗った時に声が上擦っていないか不安だった。


「涼風と言いますと、もしかしてSuzukaze.incさんの?」
「は、はい」
「そうでしたか。母がSuzukazeさんの家具を気に入っているんです。十年前に買ったクローゼットが色褪せず、未だに綺麗だと言っていました」
「ありがとうございます」


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