離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
「わかった。私も行く」
夏芭がそう言い出したので慌てて止めた。
「えっ、夏芭も? 私一人で大丈夫だよ」
「いや、パパとママになんて説明するの?」
それを言われてグッと口をつぐむ。
「本当のことなんて言えないでしょ。表向きは私が会うことにして、二人で行こう」
「ごめんね、夏芭まで巻き込んで」
「いや、私も永瀬さんの顔見てみたいし」
自分の好奇心に忠実なところは、夏芭の長所でもあると思う。
「永瀬さんってどんな人なの?」
「うーん、ちょっと強引さもあるけど真面目な人?」
「良いじゃん。結婚しちゃえばいいのに」
「無理だって」
「顔は?」
「……覚えてない」
「覚えてないの?」
夏芭は信じられないとばかりに六花を見る。
六花は気まずそうに視線を逸らした。
「だって仮面してたし」
「流石に外したでしょ?」
「外したけど、よく覚えてないのよ」
仮面から覗く漆黒の瞳が綺麗だったことは覚えている。
だけど素顔をまともに見た記憶はない。
そして、彼が六花の顔を覚えているのかどうかもわからない。
しかし顔もわからない相手にプロポーズするとは考えにくいので、覚えているということなのだろうか。
どちらにせよ謎は深まるばかりだ、何故一度だけ一夜を共にしただけの女にプロポーズをしたのだろうか。
(知る必要はないか。本当のことを知ったら、今度こそあの人と会うことはなくなるんだから)
そう思うのに何故か胸の奥がチクリと痛んだ。