離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
困惑する六花に惺久はコーヒーカップを置いて頷く。
「実は祖父から結婚を急かされていましてね」
「おじいさまというのは、六条財閥の会長さんですか?」
夏芭が間髪入れずに訊ねるので、思わず肘で小突いた。
「そうです。孫の中で独身なのはお前だけだと、自分が元気なうちにひ孫を抱かせろというのです」
「ひ孫……ですか」
「適当に流していたのですが、業を煮やした祖父がついに見合いをしろと迫ってきたので思わず結婚したい人がいる、と言ってしまいました」
「はあ。えっと、つまり……」
「祖父を安心させるために妻役になっていただきたいのです」
「妻役……」
突然の申し出に六花は混乱する気持ちを抑えられない。
オロオロする六花に対し、惺久は畳み掛ける。
「もちろんそれ相応の報酬はお支払いいたします。結婚にかかる資金、生活費もすべて負担します」
「えっ!」
「ひ孫を抱かせろと言っていますが、できなかったことにすればまあ問題ないでしょう。結婚する姿を見せてやれば納得してくれると思います。一年でいい、俺の妻になっていただけませんか」
だいぶ滅茶苦茶なことを言っていると思うが、惺久は真剣だった。
まさかこんな形のプロポーズをされるとは想像もしていなかった。
「……一年だけの結婚、ですか」
「そうですね。結婚してすぐに離婚は不自然なので、最低でも一年は夫婦として過ごしていただけると有難い」