離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 その人柄から様々な人に愛され、頼りにされる父のことを六花は尊敬していた。
 しかし、現実は甘くはなかった。

 貴雪のやり方では当然赤字であり、工場はかなり傾いていた。
 多額の借金があったことを知ったのは、母が出て行った十二年前のことだった。

 母は前々から貴雪のお人好しにうんざりしていた。
 ある時何かがプツンと切れ、離婚届を置いて出て行った。

 そしてその数週間後、貴雪にがんが見つかった。


「ステージ4ですね」


 医師からそう告げられた時、六花の頭は真っ白になった。
 これまでずっと元気だったというのに、何故いきなりこんなことを言われているのか理解できなかった。

 それなのに貴雪は笑っていた。


「母さんの気持ちを汲んでやれなかったから、バチが当たったんだろうね」


 抗がん剤治療が始まり、貴雪は痩せていった。
 髪の毛は抜け落ち、六花が編んだ毛糸の帽子を嬉しそうに被っていた。


「お父さんは、こわくないの……?」


 入院中の貴雪の見舞いに行った時、六花は震える声で訊ねた。


「私はっ、毎日毎日こわくてたまらない……っ!」


 ずっと押し殺していた感情を爆発させ、病室だというのに号泣してしまった。
 そんな六花の頭を貴雪は優しく撫でる。


「ごめんね、六花。六花をひとりぼっちにさせてしまうことだけが心残りだ。父親らしいことをしてあげられなくてすまなかった」
「私は、お父さんがいてくれるだけで幸せだったよ……」
「ありがとう。お父さんも六花が生まれてきてくれて幸せだった」


< 4 / 115 >

この作品をシェア

pagetop