離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
その人柄から様々な人に愛され、頼りにされる父のことを六花は尊敬していた。
しかし、現実は甘くはなかった。
貴雪のやり方では当然赤字であり、工場はかなり傾いていた。
多額の借金があったことを知ったのは、母が出て行った十二年前のことだった。
母は前々から貴雪のお人好しにうんざりしていた。
ある時何かがプツンと切れ、離婚届を置いて出て行った。
そしてその数週間後、貴雪にがんが見つかった。
「ステージ4ですね」
医師からそう告げられた時、六花の頭は真っ白になった。
これまでずっと元気だったというのに、何故いきなりこんなことを言われているのか理解できなかった。
それなのに貴雪は笑っていた。
「母さんの気持ちを汲んでやれなかったから、バチが当たったんだろうね」
抗がん剤治療が始まり、貴雪は痩せていった。
髪の毛は抜け落ち、六花が編んだ毛糸の帽子を嬉しそうに被っていた。
「お父さんは、こわくないの……?」
入院中の貴雪の見舞いに行った時、六花は震える声で訊ねた。
「私はっ、毎日毎日こわくてたまらない……っ!」
ずっと押し殺していた感情を爆発させ、病室だというのに号泣してしまった。
そんな六花の頭を貴雪は優しく撫でる。
「ごめんね、六花。六花をひとりぼっちにさせてしまうことだけが心残りだ。父親らしいことをしてあげられなくてすまなかった」
「私は、お父さんがいてくれるだけで幸せだったよ……」
「ありがとう。お父さんも六花が生まれてきてくれて幸せだった」