離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
惺久は仕事で少し遅れることになっていた。
走ってきたのか少し息が乱れている。
「惺久さん、お疲れ様です」
「ああ……」
何故か惺久は六花を凝視して固まってしまう。
どこかおかしいところがあるのかと、六花はおずおずと訊ねる。
「あの、どうかしました?」
「あ、いや……あまりに綺麗だから驚いてしまった」
そう言って惺久は口元に手を当てる。
六花の顔がかあっと熱くなり、思わず俯いてしまった。
「りっちゃん綺麗でしょ〜? 私がメイクしたんですよっ」
六花の隣で夏芭はニヤニヤと得意げな表情になる。
「夏芭さんはメイクアップアーティストでしたね」
「はい! 結婚式のメイクも任せてください!」
「心強いですね」
柔らかく微笑む惺久に、六花の心臓の音が鳴り止まない。
何故か惺久の顔も見られない。
「なんかいい感じじゃない?」
夏芭がコソッと耳元で囁く。
「もしかして一年で離婚しないかもよ?」
「な、何言ってるの!」
顔に熱りを感じるのは気のせいではない。
顔が赤いのはチークのせいにできないだろうか。せっかく綺麗にメイクしてくれた夏芭に申し訳ないだろうか。
この結婚は最初から終わりが決まっている。円滑に結婚して、円満に離婚する。
それがゴールで覆ることはない。
だが、ほんの少しだけだが――胸に針が刺したような痛みを感じた気がした。
これはきっと、気のせいだ――。