離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 惺久は仕事で少し遅れることになっていた。
 走ってきたのか少し息が乱れている。


「惺久さん、お疲れ様です」
「ああ……」


 何故か惺久は六花を凝視して固まってしまう。
 どこかおかしいところがあるのかと、六花はおずおずと訊ねる。


「あの、どうかしました?」
「あ、いや……あまりに綺麗だから驚いてしまった」


 そう言って惺久は口元に手を当てる。
 六花の顔がかあっと熱くなり、思わず俯いてしまった。


「りっちゃん綺麗でしょ〜? 私がメイクしたんですよっ」


 六花の隣で夏芭はニヤニヤと得意げな表情になる。


「夏芭さんはメイクアップアーティストでしたね」
「はい! 結婚式のメイクも任せてください!」
「心強いですね」


 柔らかく微笑む惺久に、六花の心臓の音が鳴り止まない。
 何故か惺久の顔も見られない。


「なんかいい感じじゃない?」


 夏芭がコソッと耳元で囁く。


「もしかして一年で離婚しないかもよ?」
「な、何言ってるの!」


 顔に熱りを感じるのは気のせいではない。
 顔が赤いのはチークのせいにできないだろうか。せっかく綺麗にメイクしてくれた夏芭に申し訳ないだろうか。

 この結婚は最初から終わりが決まっている。円滑に結婚して、円満に離婚する。
 それがゴールで覆ることはない。

 だが、ほんの少しだけだが――胸に針が刺したような痛みを感じた気がした。
 これはきっと、気のせいだ――。

< 50 / 115 >

この作品をシェア

pagetop