離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
惺久は六花の左手を取った。
惺久の大きくて少しゴツゴツした手が六花に温もりを与える。
「だから――、ずっと付けていてくれないか?」
「わ、わかりました」
じっ、と目を見つめられて思わずドクンと心臓が高鳴る。
惺久は時々六花の目を真っ直ぐ捉える。まるで逃がさないとばかりに。
「ありがとう」
なのに急に柔らかく微笑みかけたりもするから、感情の振り幅が大きい。
「で、でも一番リーズナブルなものにしますから」
六花は視線を惺久からショーウィンドウに移す。
「それと婚約指輪はなしです。今更必要ないと思うので」
「わかったよ。六花の好きなものを選んでくれ」
六花を見つめる惺久の視線は、いつも優しくてどこか甘さを孕んでいる。
だけど六花は気づかないフリをしている。
“惺久さんのこと、どう思ってるの?”
夏芭の言葉が反芻される。
本当は考える必要がないと思っているのではなく、敢えて考えないようにしているのだ。
その先を考えてしまったら、もう後戻りができなくなってしまうような気がするから。
(本当は目が合うだけで心臓がうるさい)
だがこの結婚は、一年後に終了する。
離婚すれば惺久とは赤の他人に戻る。
借金の件でお世話になることが続くとしても、弁護士と依頼人の関係というだけだ。
借金のことも完全に片付けば、もう二度と会うこともないだろう。
そんな相手のことを深く知る必要なんてないのだ。六花はもう一度自分に言い聞かせた。