離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 洗ってまな板の上に置かれたままになっていた野菜を見て、惺久はすぐに包丁を握った。
 軽快な音から手慣れていることがよくわかる。

 惺久のことをずっと住む世界が違う人だと思っていたが、同居していると彼の意外な一面が見えてくる。
 一人暮らしの頃から忙しくて家を空けることが多かったが、ハウスキーパーは雇わず休みの日にまとめて家事をやっていたらしい。


「祖父は家事など他人に任せたらいいというが、俺はあまり他人を家の中に入れたくないんだ。昔から温室育ちで何もできない坊っちゃんだと思われるのが嫌だったしな」


 そう言って自分でできる限りのことは自分でやっていたらしい。
 確かに惺久の生活能力の高さは目を見張るものだった。

 六花自身、惺久のことを温室育ちの御曹司と敬遠するところもあったが反省した。


(今もそうだ、惺久さんは私の目線になってくれる)


 六花のやることをなんでも肯定してくれるし、常に寄り添う姿勢を見せてくれる。
 些細なことでも優しさを感じられて嬉しい。

 他人を家に入れたくないと言っていたのに、六花を結婚相手に選んでくれたのは何故なのだろうか。


(……いや、そんなこと聞けない)


 そんなことを考えて切ない気持ちになっていたら。


「あっ」


 野菜を切っていた惺久の声が漏れた。
 振り返ると、惺久の指に真っ赤な血が滴っている。


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