離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


「ち、近いですっ」
「ああ、ごめん」


 惺久はすぐに離れてくれたが、先程よりも心臓の音が大きくなったような気がした。


「そういえば借金の件だけど、向こうが過払金返還に応じることになった」
「過払金?」
「俺の狙い通り、元本はとっくに完済していた。今まで君が支払っていたのは手数料という名目のみなし利息で、これは支払い義務がない」


 六花は前にも言われたことを思い出しながら聞いていた。


「六花がマメなおかげで取引履歴や契約書はしっかり残っていたからな、証拠を突き付けた上で財務局に通報すると言ったら和解を求めてきた」


 どうやら六花の知らないところで話はどんどん進んでいたらしい。
 借金がなくなるどころか返金されるとは夢にも思わなかったので、惺久の言葉をすぐには飲み込めなかった。


「ああ……ありがとうございます」


 六花は惺久に向かって深々とお辞儀をする。
 両肩に乗っていた大きな重石から解放されたような気持ちだった。


「なんとお礼を申し上げて良いのか……」
「まだ終わりじゃないぞ。この後財務局に通報して警察も動かすからな」
「え、でも通報しない代わりに返金してもらうんじゃ……」
「最短で金を取り戻すため、まずは民事で回収した。奴らのやっていたことは明らかな詐欺行為、だがそれらを立証するのに時間がかかるからな」
「なるほど……」


 惺久の弁護士としての手腕ぶりを身をもって実感させられた。
 六花のことを第一に考え、確実に返金する手段を取った上で行政と刑事に回すという完璧さである。


「だが絶対に逃がさない。六花には事情聴取で協力を求められることになると思うが、頼めるか」
「もちろんです。なんでもやります」


 六花は力強く言い切った。


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