離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 借金を肩代わりしてもいいとまで言ってくれたが、六花は首を横に振った。


「借金は何年かかっても自分の手で返済します。ですからどうか、私を雇ってください。何でもしますから」


 こうして六花は涼風家の家政婦となった。
 通常よりも高い時給で雇ってもらえ、住む場所まで与えてもらったことに多大な感謝をしている。

 妻の凪子も娘の夏芭も六花を受け入れてくれた。
 とりわけ二歳下の夏芭は六花に懐いてくれた。「ずっとお姉ちゃんが欲しかったの」と無邪気に笑っていた。

 凪子も「自分の家だと思ってくれていいのよ」と言ってくれたが、六花は涼風家に置いてもらっている身だということを肝に銘じていた。

 宏海も凪子も夏芭も優しくて温かい人たちだからこそ、甘えてはいけない。
 身に余る程の恩恵を受けているということを忘れてはいけない。
 彼らは雇用主で自分は雇用者だということを忘れてはいけないと、自分自身に言い聞かせた。

 それから十年経つが、まだ借金は残っている。
 毎月少しずつ返済に充て、節約して慎ましく生活していた。

 大学進学は諦めた。父の工房を手伝う中で建築に興味を持ち、建築学科のある大学に進みたいと思っていた。
 今更その夢を叶えたいとは思わないけれど、時折大学生を見かけると羨ましく思ってしまう。

 自分も夢に向かって邁進するキャンパスライフが送ってみたかったなぁ、と。


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