離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


「……知っていたのですね」


 六花は震える声で呟く。


「惺久さんは、知っていたのですね」
「六花、これは」
「私が母の娘だと……だから私と結婚したんですか?」
「違う、話を聞いてくれ」
「聞きたくありません」


 我慢できずに大粒の涙が頬を伝う。

 母には会いたくないと言った時、惺久は六花の気持ちを汲んでくれたのだと思っていた。
 だが本当はどうにか説得して、冬実を結婚式に呼ぼうとしていたのだろうか。

 最初から冬実の味方をしていたのだろうか。
 嘘をつかれていたのだと思うと、考えれば考える程苦しくなる。

 六花は立ち上がった。


「……帰ります」


 そのまま席を立ち、店を出て行った。
 冬実が何か言いかけたような気がしたが、無視した。


「六花!」


 惺久の声も無視した。
 それ程までに苦しくて、心が千切れそうだった。

 速歩きで進みながら、アスファルトを濡らす。
 子どもみたいにボロボロに泣きながら、それでも涙を堪えることはできなかった。

 今の気持ちを言い表わす言葉が見つからない。
 頭の中はグチャグチャで、心の中はドロドロに濁っている。


「うう……っ」


 ただ言葉にできない思いが涙となって溢れ出るのだ。

 とんだ思い上がりをしていた。
 惺久は自分に寄り添ってくれていると思っていたけれど、彼は弁護士だから困っている人の味方だ。

 所詮は一年間だけの契約妻なのだと思い知らされたようだった。

 ピコン、とスマホの通知音が鳴る。
 涙を拭いながらスマホの画面を見ると、夏芭からのメッセージだ。


《りっちゃん、みてー》
《かわいいサングラス買った》


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