離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。


 涼風社長は相当困惑していたが、何とか夏芭に会う許可をもらった。
 約束の日、ラブタンの新作のパンプスを用意して再びあのホテルへと向かった。
 靴を弁償すると約束したのにそれも反故にしてしまい、せめてものお詫びに用意したものだ。

 しかし、惺久を待っていたのは二人の女性だった。
 惺久は戸惑いながら訊ねる。


「すみません、涼風夏芭さんは……」
「私が夏芭です」


 右手をスッと挙げたのは、向かって左に立っていた明るい茶髪を巻いている女性だった。


「ただ、あなたとお会いしたのは今日が初めてです」
「え……?」
「あの日パーティーに来ていたのは、私です」


 おずおずとそう言ったのは、向かって右に立っているデコルテあたりまである黒髪の女性だった。
 惺久は思わず目を見開き、息を呑む。


「あの日、夏芭の代理でパーティーに参加していました。本当の名前は、糸井六花といいます」
「いとい、りっか……?」


 必死になって夏芭を名乗っていた経緯を説明していたが、惺久はまるで聞いていなかった。


(まさか、六花だったなんて……!)


 改めて真っ直ぐに見た彼女の顔は、あの頃の面影がはっきりと残っていた。
 純粋さはそのままに、美しく成長していた。

 十二年ぶりにこんな形で再会するとは、夢にも思わなかった。


「ですから、この度のお話はなかったことに……」
「待ってください。本当に糸井六花さんなんですか?」
「は、はい」
「俺のこと、覚えてない?」


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