同棲中彼は、顔だけかも、しれない。
 ✜

 三月の朝は、まだ肌寒い。
 震えながら、寝ぼけ眼で台所の電気を点けたその時、
 
 「ん?」

 ゴリッ、とスリッパで何かを踏んだ。
 足元を見ても、一瞬、それが何か分からなかった。
 ゴミ? もう一度目を凝らして見る。

 どす黒い血液にまみれた灰色の物体だ。
 濡れたような貧相な毛質。
 長いしっぽ。

  ――こ、これは、

 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 と、近所中に聞こえそうな叫び声を上げた。
 それは紛れもなく鼠の死骸だったからだ。
 私の悲鳴で、すかさず飛んできたのはシバだった。

 「お、お前がやったの?」

 どーりで夜中、台所でシバが暴れてる気配がしたんだ。

 「こらっ! だめっ!」
 
 再び、死骸で遊ぼうとするシバを阻止し、慌ててキッチンペーパーを被せて、それをビニール袋をはめた手で掴み、くるりと包む。
 
 こ、これは生ゴミなのか?
 違うよね?
 でも、スンゴイ小さい鼠だったし大丈夫だよね?
 
 鳥肌のまま、念入りにそれを紙類で覆い隠し、生ゴミ箱に捨てたが、ずっと震えは止まらなかった。

 もう、嫌だ。
 こんな家、こんな生活。

 「ちょっと! 起きて!」
 
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