同棲中彼は、顔だけかも、しれない。
 恐らく鬼のような顔をしてるであろう私が詰め寄ると、アタルは座ったまま後退りした。

 「し、小説家」

 「へー! 小説家ってのは毎日Wordの白紙画面見つめたり、オンラインゲームしたり出会い系アプリ見てたら成れるわけ?」
 
 「……え?」

 ″出会い系″ という言葉に動揺し、ヒュッと言葉を飲み込んだアタルは、間違いなく黒。
 
 カマかけに引っ掛かって相当アホだ。

 「誠意なし! 性欲なし!  努力なし! 甲斐性なし! あるのは並み以上の顔だけ! そんなあんたが書く小説なんて面白いわけないやろ! 誰も買わんわ!!」
 
 読んだ事ないから知らんけど。
 どっちにしても、もう支える価値もなし。

 「一体どんだけ我慢すれば幸せになれるのよ? そうこうしてるうちに、こっちまで枯れちまうわ!」

 五年。
 先の見えない将来の為に費やした――

 「私の貴重な二十代の時間を返せ!」

 
 泣きながら暴言を吐いた私に圧倒されたのか、アタルは言葉を失う。

 今にも潰れそうな家を見渡したあと、やっと呟くように言った。

 「……そんなに不幸だと思うんなら出ていけよ」




 
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